
「オムニチャネルって何?」
EC部門に配属されたばかりの方など、社内で飛び交うこのワードに戸惑う方もいるのではないでしょうか?
オムニチャネルとは、すべての販売チャネルを連携させて、顧客にアプローチする販売戦略のことです。スマートフォンやSNSが普及したことで商品やサービスの購入までの流れが多様化している今、押さえておきたいマーケティング手法の1つといえます。
本記事では、
- オムニチャネルの概要から事例
- 似ている単語との違い
- 今後の予測
まで網羅的に解説していきます。この記事を読んで、オムニチャネルに詳しくなってください。
目次
オムニチャネルとは?
オムニチャネルとは、あらゆる手段で顧客と接点を作り、購入の経路を意識させない販売戦略のことです。
「すべて、あらゆる」という意味を持つ「オムニ(Omni)」と「流通経路」という意味を持つ「チャネル(Channel)」から成ります。
下の画像は、オムニチャネルを図で表したものです。全チャネルが連携して、顧客を中心にシームレスな購買体験を提供しています。
2011年にアメリカの百貨店メイシーズ(Macy’s)が「オムニチャネル宣言」を発表したことが始まりです。この宣言は、実店舗とECサイトの情報管理システムを一元化し、販売機会の損失を防ぐことを目的として発表されました。この取り組みによって顧客満足度の向上・メイシーズの利益が向上しただけでなく、全社規模での在庫管理が可能となり、業務改善も果たしています。
オムニチャネルに対応すれば、消費者はあらゆる媒体を使って情報を得ることができ、場所や時間に縛られることなく購入ができるようになります。いつでも、どこでも購入できる機会を提供することで、顧客満足度が向上し、リピート率や売り上げの向上にもつながります。
オムニチャネルのたとえ話
例えば、お目当ての洋服を求めて店舗に足を運んだところ、店舗に在庫がなかったとします。そんな時、店員さんにネットショップであれば在庫があると提案され、その場で決済を済ませて後日、自宅に配送してもらうようにしました。このように、実店舗とネットショップの隔たりをなくし、目的のものを購入できる仕組みが「オムニチャネル」です。
オムニチャネルの事例
ここでは、オムニチャネルの事例を2つご紹介します。
IKEA
スウェーデンの発祥の家具量販店、IKEAは2020年4月の「IKEA原宿」の店舗オープンに合わせて「IKEAアプリ」をリリースしました。従来、IKEAは郊外に大型店舗を展開して、「顧客が実際に商品やインテリアを見て購入を決める」というビジネスモデルで経営を行ってきました。
都心に小型店舗を出店するにあたり、商品数を今までの1/10に絞り、なおかつ大型店舗と同じ価値を提供する必要がありました。このような課題を解決するためには、デジタル化は必要不可欠でした。
アプリでは、ARを活用しており、IKEAの商品を現実空間に再現し、商品のインスピレーションをユーザーに与えます。商品情報内にある、ブルーのARアイコンをタップして、障害物のない平坦な場所にiPhoneを向けると、家具の配置シミュレーションが行えます。そして、表示された商品をそのままオンラインで購入することも可能です。IKEA原宿は、アプリとの連携を通して、インタラクティブな買い物体験を提供しています。
出典:IKEA
無印良品
良品計画の無印良品では、スマートフォンアプリ「MUJI passport」をオムニチャネルの一環としてリリースしています。MUJI passportにはニュース配信や在庫管理など画期的な機能を搭載していますが、「MUJI マイルサービス」を取り入れたことで、実店舗への誘導を増加させました。
MUJIマイルは、無印良品の実店舗、ネットストア、チェックインなどあらゆる無印良品の体験がマイルとして貯められます。チェックインとは、無印良品の店舗でアプリを開き、「チェックイン」すると1回につき10マイルが獲得できるサービスです。実店舗とアプリを連携させることで、実店舗に足を運びたくなる”きっかけ”を創り出しています。
また、店頭で配送注文を利用する際、MUJI passportのバーコードを見せるだけで、事前に登録した配送先に届けてもらうことも可能です。伝票に記入する手間が省け、手荷物を増やしたくない場合でも買い物しやすくなります。無印良品の顧客をファンに変える仕組みまでデザインしたことがオムニチャネル成功の秘訣だと言えるでしょう。
O2Oやマルチチャネルとの違い
オムニチャネルと混同されやすい「O2O」「マルチチャネル」との違いをご説明します。
O2Oとの違い
O2Oとは「Online to Offline」の略で、オンラインとオフラインを連携させて実店舗への集客を目的とした戦略のことを指します。例えば、Webサイトに訪れたユーザーに対して、実店舗で使えるクーポンの配布や、位置情報サービスによって積極的に店舗の認知や来店を促し、実店舗の来店につなげる取り組みがO2Oです。
これに対してオムニチャネルは、「実店舗とネットショップの垣根をなくした販売戦略」です。O2Oとオムニチャネルの違いは、「オンラインの活用方法」です。O2Oはオンラインを”実店舗での売上向上を図る目的”として使われているのに対し、オムニチャネルでは、オンラインとオフライン含めたすべてのチャネルを統合させることで、売上向上を図っています。
マルチチャネルの違い
マルチチャネルとは、複数のチャネルを使って、ユーザーが求める情報や商品を提供する戦略のことを指します。マルチチャネルでは、ECサイトや実店舗に限らず、SNSや動画など様々なチャネルを使ってユーザーにアプローチします。これに対してオムニチャネルは、すべてのチャネルを連携させてユーザーにアプローチする戦略です。
オムニチャネルとマルチチャネルの違いは、「実店舗とネットショップが連携しているかどうか」です。例えば、顧客が実店舗に訪れたものの在庫がなく、自らネットショップで購入することは「マルチチャネル」です。ネットショップで検索した商品の支払いを実店舗で済ませ、受け取りを自宅で行えるようにすることが「オムニチャネル」です。このように、オムニチャネルはそれぞれのサービスを連携させることで、スムーズな商品の提供を可能にします。
オムニチャネルが生まれた背景
オムニチャネルが生まれた背景として、「ショールーミング」が挙げられます。ショールーミングとは、実店舗がショールーム化することです。ネットショップには実際の商品を見れない、手に取れないという懸念点があります。そのため、店舗で商品を見て、ネットで価格を比較して最安値で購入するケースが増えていきました。
このような消費者の行動により、実店舗での販売機会は減少していきました。実店舗を持つ企業は、ネットショップに対抗できません。なぜならネットショップは実店舗を持たないことでコスト削減ができ、実店舗より低価格での提供を実現しているからです。
そんな中、実店舗を持つ企業がネットショップに対抗する策としてできたのが「オムニチャネル」です。実店舗をあえてショールーム化させて、実店舗で確認した商品を自社サイトでも購入できるような仕組みにすれば、どのチャネルから購入しても同じ会社の売上になります。実店舗では接客を兼ねて、配送や組み立てなどの相談に乗ったり、サポートをしたりしてネットショップとの差別化を図っています。
オムニチャネルが注目される理由
オムニチャネルが注目されるようになった背景として、スマートフォンとSNSの普及があります。スマートフォンの普及により、私たちはパソコンを持たずしてインターネットを楽しめるようになったため、消費者行動は多様化していきました。
ユーザーは様々なチャネルを見て比較して、購入を決めます。購入前に、SNSで商品のレビューや口コミをチェックすることも当たり前になっています。小売業は「どこで何を売るか?」よりも「誰にどうやって買ってもらうか?」という考えに重きを置くようになりました。
また、テクノロジーの進歩により、顧客の行動を正確に把握できるようになったことも、オムニチャネルが注目される理由の1つです。あるチャネルの購買データを、ほかのチャネルに応用できれば、ユーザーとってより有益な情報を届けることが可能になります。
オムニチャネルのメリット
ここでは、オムニチャネルのメリットを2つご紹介します。
顧客満足度の向上
商品を求めて来店している顧客がいるにも関わらず、商品の欠品が原因で販売機会を損失してしまうのは勿体ないです。オムニチャネル化することで、ユーザーは実店舗・ECサイトでの在庫を確認できたり、ネットで詳しい情報を見ることができたりします。
そのため、実店舗では購入に至らなかったユーザーに対しても再アプローチすることができます。オンラインとオフラインの連携で実現する今までにないUX(User Experience:顧客体験)は、顧客満足度の向上に役立ちます。
情報と在庫の一元管理
消費者行動が多様化し、実店舗やECサイト、SNSなど企業が持つタッチポイントは増え続けています。媒体によってユーザー属性や行動パターンは異なり、従来と比べて購入までのプロセスが多様化してきています。
販売チャネルを個々に分析していては、分析可能なユーザーの行動パターンが限られてしまいます。そこですべての販売チャネル・タッチポイントの一元管理を行えば、各チャネルの商品の売れ行きだけでなく顧客情報や行動パターンもまとめて管理できるため、より精度の高い分析が可能に。
商品の在庫も一元管理することで、販売機会の損失防止や破棄削減を実現し、結果としてコスト削減につながります。
オムニチャネルの今後
オムニチャネルは下火になっている?
小売各社において、「オムニチャネルは売り上げが伸びない」「採算が合わない」などネガティブな声が上がっており、失敗事例として語られることも多くあります。ECサイトの利用者増加に伴い、ヤマト運輸は宅配サービスの見直しを進めており、宅配コストの高騰によって収益に影響を与えている中、さらにオムニチャネルの市場は厳しくなっていくと見られます。
一方で、アマゾンによる「Amazon Go」の実験店舗やホールフーズ買収、楽天による「楽天カフェ」の展開、Oisixによる「ショップインショップ形態」の店舗拡大など、ネットプレイヤーがリアル店舗に進出する動きが拡大しており、リアル店舗とネットを融合させた競争は、ますます激化していくと予測されます。
「ネットとリアルを組み合わせる」という点は共通しているのにも関わらず、オムニチャネルはなぜ失敗事例として語られる側面があるのでしょうか。原因として、オムニチャネルに対する”3つの誤解”があるからだと考えられます。
オムニチャネルに対する3つの誤解
1つ目の誤解は、オムニチャネルをEC同様、「新たに生まれるチャネル」とイメージして取り組むことです。オムニチャネルは、ネットを活用した実店舗の変化と考えなくてはいけません。他の販売チャネルを統合させた上で、実店舗を合わせていく必要があります。
2つ目の誤解は、「競合は店舗を持つ小売業」と考えられていることです。先述した通り、ECのリアル店舗への参入が拡大しています。オムニチャネルを採用する場合、店舗を持つ小売業ではなく、ECのリアル店舗進出に対抗していかなくてはいけません。
3つ目の誤解は、オムニチャネルを「顧客の囲い込み」と認識することです。オムニチャネルは、既存顧客の囲い込みではなく顧客のファン化やコミュニティ化に効果があるとされています。
上記のように、オムニチャネルの本質を理解して進めなければ、真のオムニチャネル実現は難しいでしょう。オムニチャネル化するのであれば、
・自社のリソースを把握すること
・自社の顧客と、顧客が求めるものを理解すること
この2つの前提を踏まえた上で、適切な施策行うことが必須となります。「顧客起点」の考え方を、頭に入れておきましょう。
オムニチャネルの市場予測
一時期過熱したブームは去ったかに見えるオムニチャネルですが、野村総合研究所(NRI)が発表したレポートによると、2026年度にはオムニチャネルの市場は80兆9000億円まで拡大すると予測しています。オムニチャネルは発展の余地がある市場です。
今後、オムニチャネルの考え方を採用する企業は増えていくと考えられます。そのため、チャネルありきではなく、顧客中心の視点で考えることがますます重要になってきます。単なる利便性を超えたUX(便利、嬉しい、わくわく、快適)を提供し、最も適したチャネルを組み合わせていくことが、オムニチャネル戦略の成功へとつながります。
まとめ
今回は、オムニチャネルについてご紹介してきました。オムニチャネルとは、ネットとリアルの垣根を越えて、あらゆる場所で顧客との接点を作ることです。
オムニチャネルは、一部で下火になっているとの見方もありますが、大局的に見るとまだ伸びしろのある市場です。自社の現状を把握し、オムニチャネルの活用を検討してみてください。