
「越境ECって何?」
ECサイトの事業拡大をお考えの方は、耳にすることがあるのではないでしょうか。
越境ECとは「国境を越えたECサイトの取引」のことです。越境ECを行うと、日本にいながら世界各国に向けて自社の商品をアピールできます。
本記事では、
- 越境ECの概要
- 越境ECが拡大している理由
- 越境ECの始め方と注意点
まで、最新情報をもとに解説していきます。越境ECの導入を検討する際の手助けとなれれば幸いです。
目次
越境ECとは?
越境ECとは、インターネット上の通信販売サイトを通して行われる「国際的な電子商取引(EC)」を指します。国内のECだけに留まらず、新たな販路を開拓できる手段としてネットショップ事業者や企業から注目が集まっているECの手法です。
ユーザー視点では、自国では手に入らないような珍しいものが購入できたり、その国の文化を感じられたりすることが、越境ECの魅力として挙げられます。
越境ECの市場規模

出典:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)
上の画像は経済産業省が公表している「日本・米国・中国3ヵ国の越境EC市場規模」です。経済産業省の調査によると、令和元年度の日本の消費者における中国・米国からの越境EC購入額は3,175億円であり、前年度比14.8%となりました。日本事業者からの越境EC購入額は、中国消費者が1兆6,558億円(前年度比7.9%増)、米国消費者が2兆94億円(前年比16.3%増)であることから、昨年に引き続き増加していることがわかります。

出典:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)
こちらの画像も、経済産業省が公開している「2020年時点の世界の越境EC市場規模の推測地と2027年の予測値」です。世界の越境ECの市場規模は、2027年には4兆8,561億USドルまで拡大すると予測されています。この予測値に対しての年平均成長率は約27%で、急速に拡大していくと見られます。
越境ECが拡大している理由
なぜ越境ECが拡大しているのでしょうか。理由としては以下の3つが考えられます。
①スマートフォンの普及
近年では、世界主要国で所得水準が向上したことと、端末が安価で手に入りやすくなったことによりスマートフォンは急速に普及しました。多くの国でスマートフォンさえあれば、いつでもどこでもインターネットからECサイトにアクセスしてショッピングを楽しめるように。わざわざ現地に足を運ばなくてもネットで手軽に海外の商品を購入できるようになったため、越境ECの市場は年々拡大しています。
②ニューノーマル時代の消費行動とマッチ
コロナ流行後、私たちの生活はニューノーマルなものに変化していきました。「ソーシャルディスタンス」「外出自粛」により、気軽に外で買い物ができなくなったことで「巣ごもり消費」が増え、越境ECの利用者も増加。コロナ以前から越境ECはインバウンド市場を超えていましたが、ニューノーマル時代の消費者行動とマッチしているため、さらに越境ECの市場規模は拡大していくと予想されます。
③参入する事業者の増加
越境ECに活路を見出す事業者が増えています。少子高齢化が進むことで、シャッター商店街になってしまう場合も。そんな中、日本のものを海外向けに販売することは商圏拡大のチャンスです。
例えば日本人が観光地で購入するような伝統工芸品は、今の時代そもそも旅行が難しい状況なので日本での売れ行きは望めません。一方で日本の伝統工芸品や、カルチャーを感じられるものは海外から人気が高いです。そこで海外のニーズに着目し、越境ECに参入する事業者が増えてきました。
言葉の壁
「越境ECに挑戦してみたいけど、英語が心配」「そもそも英語力はどのくらい必要なの?」と思う方もいるでしょう。結論から言うと、英語は最低限中学生レベルでもOKです。
eBayが行った調査から、約68%のセラーが基礎会話レベルの英語力で越境ECを運営していることが明らかになっています。母国語が英語でない方とやり取りすることもあるため、かえって中学生レベルの英語の方が良いという場合も。相手にわかりやすく、意思が伝わる英語が使えれば問題ないでしょう。
さらに、今ではGoogle翻訳などの機械翻訳の精度が上がってきています。それら翻訳ソフトを駆使してコミュニケーションを行えば、中学レベルの英語でも十分やっていけるといえるでしょう。
越境ECの注意点
ここでは越境ECを行う上での注意点を紹介します。
輸出に関するコストがかかる
越境ECではインターネットから注文を受け、日本から海外へ輸出します。国内ECと比べて、配送料や手数料・関税などユーザーの負担は大きくなってしまいます。そのため、配送料・手数料がかかったとしても欲しいと思ってもらえるような商品を販売しなければなりません。つまり、“どれだけ商品やブランドで勝負できるか”が越境ECでは問われるのです。また、越境ECでは外貨で決済が行われるため、為替レートの変動などによって価格に差が出てしまうことも頭に入れておきましょう。
販売先の国によって法律が異なる
越境ECを行うにあたって、物流や決済方法、発送手段、翻訳など販売国に準じた対応が必要です。例えば、中国でインターネットビジネスを行う前に、ICPの登録を行う必要があります。その理由は、中国国内のWebサイトは全て登録制のためです。また、オンライン決算を伴うWebサイトはICPライセンスの取得が必須となります。ライセンス未取得のWebサイトが見つかった場合、運営停止や罰金などのペナルティが科せられるため、トラブルを避けるためにも事前の調査や対策を入念に行いましょう。
国際輸送における規則を把握しておく必要がある
越境ECは国境を越えた取引となるため、商品やサービスに対して「関税」が発生します。例えば、中国では古着の輸入ができなかったり、中古機器の輸入には現地で確認が必要とされる規制があったりもします。ワシントン条約に関わる革製品などは特に注意が必要です。輸出入の許可リストは各国の税関ホームページで確認できるので、事前にチェックしておきましょう。
GDPR対策の必要がある
GDPR(General Data Protection Regulation)とは「EU一般データ保護規則」のことで、EUに加盟国における個人データを保護することを目的とした法律です。GDPRは、欧州がGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)に対抗するために作られたと言われています。
GDPRに違反した場合、年間売上(全世界)の4%、もしくは2,000万ユーロのいずれか高い方の制裁金が科せられます。そのため、欧州への越境ECは注意すべきです。GDPR対策として、プライバシーポリシーの策定を行い、セキュリティの強化が重要になります。欧州への越境ECを自社サイトで行う場合GDPR対策も自前で行わなければなりません。心配な方は欧州向けの越境ECプラットフォームから始めてみるのがよいでしょう。
越境ECで失敗しないために押さえておくべきこと
越境ECで成功するためには、中長期的な視点で進めていくことが大切。最低でも3年は続けるという覚悟で挑戦していただきたいところです。
越境ECの運営担当においても、現場の仕事と越境ECの運営を兼任させたり、国内のECの仕組みをそのまま運用したりして失敗するケースもあります。越境ECでは各国で法律が異なるため、海外のお客様と向き合える体制を整えなければ、顧客との信頼の構築は難しくなるでしょう。
「英語ができる」という点だけを見て越境ECの担当を決めるのは危険です。英語ができても、仕事ができなければ意味がありません。それどころか、越境ECを成功させるために必要なのは「ハートと経験」という意見もあります。越境EC事業では、世界のEC市場についていくためにPDCAを高速で回転させ、反応を見ながら軌道修正をしていくことが重要。市場の動きを察知し、意思決定できるハートと、仮説検証やトラブル、クレーム対応の経験が越境ECの成功へとつながります。
越境ECの事例
ここでは、越境ECの成功事例を3つご紹介します。
※いずれもフラットフォームを使わず、自社サイトによる越境ECの成功例です。(後述しますが、本格的な越境ECを行うには自社サイト一択になります)
SAMURAI STORE
越境ECサイトの「SAMURAI STORE」を運営する企業です。2001年からサイトを開設しているため、「越境ECサイトの老舗」とも呼べるでしょう。サイト名からイメージできるように、甲冑や刀、工芸品などを取り扱っているショップです。日本の侍の甲冑は海外からも人気が高く、高価格であっても需要があります。
競合サイトも増えてきていますが、甲冑をメインとした販売戦略はすでにリピーターを抱えており、口コミ等の後押しもあって不動の人気を誇っています。
Tokyo Otaku Mode
Tokyo Otaku Modeは、アニメ、漫画、ゲーム、ファッションなどのサブカルチャーコンテンツを海外に向けて発信・販売などを行っている企業です。主にFacebookで情報発信をしており、これまでに2000万いいねを獲得しています。普通の日用品ではなく、アニメやゲームとコラボしたアパレルやキッチン用品などの商品を扱う「独自性」が強みとなり、ブランディングに成功しているといえるでしょう。
越境ECで売れる商品
越境ECを始める前に、どんなものが海外でニーズがあるのか把握しておきたいところ。
アジアの国や地域では、菓子類や電気製品、化粧品や医薬品などの需要が高いです。その一方で、欧米の国では和服や民芸品、書籍やCDなど日本文化と関連する商品にニーズがあります。
また、越境ECでは思いがけない商品が人気となるケースもあります。下に例を挙げてみます。
- 自動車やバイクの部品
- フィギュア、玩具、日本製カメラ
- 中古ブランド品、高級時計など
上記のように、海外では手に入りづらいものや、商品そのものに価値を感じて購入していることがわかります。
越境ECの始め方
「越境ECをやってみたいけど、始め方がわからない」「始める前にどんな準備が必要なのか知りたい」という方のために、越境ECの始め方を3ステップでご紹介します。
①商品を確保する
まず、海外向けに販売する商品を決めます。物販で越境ECを行う場合は、商品の在庫と発送方法を確保する必要があります。国によって輸出入が禁止されているものもあるので、選定の際は要注意です。
また、越境ECを利用しなくても現地で手に入るものは収益が見込めないため、避けたほうが良いでしょう。
②販売するターゲットを絞る
販売する商品が決まったら、次はターゲットを決めていきます。売り込みたい商品のニーズがある地域や国、購買・消費行動の特徴だけでなく、主要な言語、為替変動の影響なども踏まえてターゲットを設定してください。
③越境ECの出店パターンを決める
越境ECの出典パターンは、大きく分けて「自社サイト」と「ECモール」の2つの選択肢があります。自社サイトは、独自でCサイトを構築し、商品を販売していく形態のことです。海外SEOやリスティング広告などの施策を行う必要があります。ただし、難易度は高めなので初心者にはECモールがおすすめです。
ECモールは、国外のECモールに顧客に商品を販売していく形態のことです。現地ルールに則った運営により、売り上げ拡大を目指しやすく、難易度もそこまで高くありません。しかし、自社サイトに比べて手数料が高くなるというマイナスな面も。
自社サイトの場合、集客も自前で行う必要がありますので、初心者にはモールの方が適しているといえます。しかし、後々本格運用をする段階では、必ずと言って良いほど手数料の問題に直面します。そのため、最初から本腰を入れて越境ECに取り組む場合は、最初から自社サイトにしておくのも良いでしょう。
日本企業におすすめの越境ECプラットフォーム
越境ECには「自社サイト」と「ECモール」の2つの出店方法があります。手数料が取られてしまうため、基本的に自社サイトがおすすめですが「最初から自社サイトで越境ECを行うのは不安」「やり方を学んでから自社サイトで越境ECを始めたい」という方は「プラットフォーム」から越境ECを始めてみてください。
下の画像は、令和元年に経済産業省が公表した「国別EC市場規模」です。ここでは、初心者におすすめのECプラットフォームと上位国のおすすめECプラットフォームをご紹介します。

出典:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)
【初心者】eBay
出典:eBay
eBayはアメリカのカリフォルニア州を拠点としている、世界190ヵ国に出品可能な「世界最大級のオークションサイト」です。日本で例えると、ヤフオクのようなサイトとなっています。越境ECを円滑に運用するための多様なツールが揃っていたり、トラブル時の対策や支援プログラムが充実していたりするので、eBayは初心者におすすめのプラットフォームです。
取引実績を積み、セラーアカウントの上限を徐々に解除していく必要がありますが、越境ECのノウハウは確実に学べます。また、レビューなどがセラーアカウントの信頼性が売上に直結しますので、海外取引対応の基礎をしっかり身につけることができます。本記事の監修者も過去にeBay.usを使ってセラーとして取引をしていた経験があり、eBay.us経由でロシア、オランダ、中国から注文があったそうです。
【中国】天猫国際(T-mall Global)
出典:天猫(T-mall)
天猫(T-mall)はアリババグループが運営しているECモールです。「中国で知らない人はいない」と言っても過言ではないほど認知度が高く、シェア率は60%を超えています。T-mallは日本製品の愛用者が多く、ユニクロやマツモトキヨシ、伊勢丹、三越など多数の日本企業が出店しています。中でも、日本のファッションやコスメは人気が高いため、自社でこのような商材を扱っている場合に天猫国際はおすすめです。
【アメリカ 】Amazon.com

出典:Amazon.com
日本でもおなじみ、アマゾンはアメリカ最大のECモールです。2020年の時点では世界18ヵ国で利用されています。アメリカ国内のEC市場の約5割をAmazonが占めており、国民の5人に1人がAmazonを利用しているという計算になります。
2018年には世界の有料会員数は1億人を突破しました。人気の秘密は、Amazonのロゴに「A」から「Z」までに矢印が引かれいるのが象徴する通り、AtoZで何でも揃う「幅広い品揃え」だと言えるでしょう。Amazonで越境ECを行うには、「Amazon.co.jp(日本版サイト)に出品して、海外へ商品を配送」と「Amazon.com(米国サイト)でAmazonグローバルセリングを利用して出品」の2つの方法があります。
【韓国】G-Market
出典:Gmarket
Gmarketは、韓国最大級のECモールです。もともとはGmarketという会社が運営していましたが、2009年にアメリカのeBayが株の過半数を取得したことにより、eBayの子会社となりました。現在ではeBay Korea社が運営しています。Gmarketでは化粧品やファッション、食品など幅広い商材を取り扱っています。また、楽天ともクロスボーダー取引推進を目的として協業を行っているモールです。
【ドイツ】Otto
出典:OTTO
OTTOは、ドイツのEC市場で2位のECモールです。ドイツ国内でのトップシェアはAmazon.comですが、OTTOはアパレルやライフスタイルの分野ではヨーロッパトップです。OTTOは世界30ヵ国に123の子会社を持っています。ドイツをはじめに、イギリスやオランダなどヨーロッパ諸国の消費者にアプローチすることができます。
まとめ
この記事では、越境ECについてご説明してきました。ニューノーマル時代だということもあり、越境ECの市場はさらに拡大していくでしょう。海外と取引を行うため、不安材料として真っ先に挙がるであろう「言葉の壁」は自動翻訳の進歩によって取り除かれてきているため、出店におけるハードルはそこまで高くはありません。
出店の方法は「自社サイト」と「ECモール」の2つのパターンがあります。ECモールの方が簡単ではありますが、高い手数料が取られてしまうため、「自社サイト」での運営をおすすめします。