
「ペルソナって何?」
「ペルソナとターゲットは違いはあるの?」
マーケティングに関わりはじめて間もない方の中には、何となく意味はわかるけどきちんと理解できていないという方もいるのではないでしょうか。
「ペルソナ」とは、商品やサービスの利用者の典型的な特徴を合わせ持つ架空のユーザーのことです。混同されやすい言葉に「ターゲット」がありますが、”設定する範囲の詳細さ”が大きく異なります。
本記事では、
- 「ターゲット」との違い
- ペルソナの設定方法
- 日本の企業の活用事例
などを詳しく解説していきます。マーケティング活動に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
ペルソナとは
ペルソナとは、商品やサービスの利用者の”代表的な特徴”を合わせ持つ架空のユーザーのことです。
年齢・性別・家族構成だけでなく、実際にその人物が存在しているかのように「ライフスタイルや価値観、プライベートなこと」に至るまで詳細に設定することで、戦略を立てやすくなります。
ペルソナを設定し、その人物に向けた企画や設計を行うことをペルソナマーケティングと呼びます。
ペルソナ設定の重要性
現在の市場は、ライフスタイルの多様化によりニーズも様々で、一人ひとりに適したサービスが求められています。ひと昔前の市場と比べ、対象とするユーザーをより絞り込む必要があるのです。
ターゲットとペルソナの違い
マーケティングにおいてよく使われる似た言葉に「ターゲット」がありますが「ペルソナ」とは一体何が違うのでしょうか。簡単に説明すると「具体的な人物像までを想定しているか」に大きな違いがあります。
ここからは、それぞれの例を挙げて違いを比べてみます。
比較
■ターゲット設定の場合
・30代男性
・アウトドア派
■ペルソナの場合
・山田太郎
・32歳
・男性
・会社員
・都内在住
・妻、娘(4歳)、息子(1歳)
・キャンプ、BBQ好きなアウトドア派
・週末は毎週のように友人や家族と出かける
このように、ターゲットはざっくりとしたユーザー層を想定するのに対し、ペルソナはただ1人のユーザー像を徹底的にイメージして想定することになります。
ペルソナ設定のメリット
①組織内で人物像の共通認識
担当者間で対象とするユーザーの認識がずれていると、意見の食い違いから戦略が決まらず、スケジュールの遅れなどのトラブルが起こりやすくなります。
しかし、ペルソナを設定すると、同じチームや部署だけでなく異なる分野の担当者とも、人物像の共通認識を持つことができ、その結果、無駄な作業や時間の削減にも繋がります。
②コンセプト・方向性が定まる
ペルソナを設定することによってニーズを導き出すことができると、マーケティング戦略の方向性も決まってきます。コンセプトが固まることにより、業務内容の意味や意義・目標を定めやすくなります。
③ユーザー目線に立てる
企業やブランドは、自社のアピールポイントを一方的に発信しがちですが、ペルソナを詳細に設定しておけば、ユーザーのライフスタイルや感情まで想像ができ、ユーザーの目線に立つことが容易になります。
ユーザーの目線に立つことによって初めて得られる気づきも多いでしょう。ターゲット設定だけでは感情的な部分まではなかなか見えてきませんので、ペルソナ設定が重要になってきます。
ペルソナの設定方法
それでは次に、具体的なペルソナの設定方法について見ていきます。
①自社分析
ペルソナ設定をする前に、一度立ち止まって、改めて自社の分析をしてみることをおすすめします。自社の強み・弱みを客観的に認識し、市場での立ち位置を見極めることこそが、あらゆるマーケティングの出発点です。
自社分析をする際に、王道の分析手法は3C分析です。自社を取り巻く事業環境を「Customer:市場・顧客」「Competitor:競合」「Company:自社」の3つの視点で分析していきます。
「今さら3C分析なんて・・」と思う方も、ペルソナマーケティングを行う際にやってみてください。3C分析の3つの要素は日々刻々と変化しています。ペルソナマーケティングに取り組むことを前提として3C分析を行うことで、改めて重要な気づきが得られるかもしれません。
②項目(要素)
次にペルソナ設定のための項目を選定します。
設定項目は挙げるとキリがないほどありますので、商品やサービス、目的合った項目を選定しましょう。
一例として代表的な4つに分類し項目を挙げてみます。
属性 | ・氏名 ・性別 ・年齢 ・居住地 ・職業 ・年収 ・家族構成 |
パーソナリティ | ・性格 ・価値観 ・流行への感度 ・口癖 ・悩み |
ライフスタイル | ・起床時間 ・通勤時間 ・勤務時間 ・就寝時間 ・休日の過ごし方 ・よく読む雑誌 ・よく行くお店 ・使っているデバイス |
人間関係 | ・仲の良い友人の人数 ・よく使うSNS ・所属しているコミュニティ |
③情報収集
細かすぎると感じるかもしれませんが、詳細な項目を設定することでペルソナを「実存する人物」に近づけることできます。ここで大切なのが、定量的な項目と定性的な項目をバランスよく取り入れることです。
項目が決まれば、次は肉付けです。ペルソナを絵に描いた餅に終わらせないよう、データを集めていきましょう。情報収集でよく用いられる方法は以下の3つです。
インタビュー・アンケート
既存顧客へのインタビューやアンケートによって収集することが一般的です。
ただしこの方法は費用と時間がかかるため、お客さまと会う機会の多い営業担当の話を聞くという手もあります。属性に関する正確な情報を集めることは難しいですが、お客さまが気づいていない自身の価値観や潜在的なニーズに営業担当は気づいていることも多く、パーソナリティに関する情報が期待できるでしょう。
営業担当の直感には数値化された根拠があるわけではないですが、実際のところ下手なデータよりも正しい場合があります。営業担当に直感的にペルソナ設定をしてもらうのも有効手段の1つだと言えるでしょう。
既存データの活用
自社サイトのアクセスデータや、ユーザーの声が反映されたデータがある場合は活用しましょう。
自社のデータ以外にも関係省庁が発表しているデータを参考にしてみるのも良いですね。ただしそのデータの信憑性やいつ公開されたものか等に注意し、信頼できると判断したもののみを活用しましょう。
SNS・ネット
Twitter、InstagramといったSNSや、Yahoo!知恵袋などで検索し、実際のお客様の声に耳を傾ける、という方法もあります。「自社名+サービス名」と検索すると「○○すごく良かった!」といった肯定的な意見や「○○使いづらい、もう買わない」などの否定的な意見が出てくるかと思います。ユーザーの本音が反映されているものなので参考にしましょう。
「新規事業なので既存顧客がいない」という場合でも、競合他社の検索をすることで、自社のユーザーになりえる層を把握することができますよ。
④ペルソナを完成させる
収集したデータを整理し、ペルソナ設定の項目に当てはめてみましょう。ペルソナに名前を付けたり、写真や人物イラストを作るのも人物像を明確化するのに役立つのでおすすめです。
ペルソナマーケティングとは、イメージの力をマーケティングに最大限活かす取り組みでもあるといえるでしょう。
BtoB向けペルソナ設定
BtoBにおいてペルソナの設定は不要だといわれることがあります。たしかに、BtoCと比較してみると購買に至るまでの過程が複雑なため、結果につなげるのは容易ではありません。
しかし、正しい方法で設定すればBtoBでもペルソナを活用することは可能です。
BtoB向けのペルソナを設定する際、パーソナリティやライフスタイルに関わる項目は必要ありません。大事なのは以下の3点です。
- 担当している事業と所属歴
- 事業内容、業種
- 担当事業の抱える課題と目標
以上の項目と、BtoCで用いた属性の項目を組み合わせて設定すると良いでしょう。
ペルソナ設定の注意点
①先入観や理想を反映しない
ペルソナを設定するうえでやりがちなのが、自分の思い込みを反映させてしまうことです。
担当者が持っている先入観や自分達にとって都合のいい理想像は、本来の顧客像とかけ離れたものを生んでしまいます。
ペルソナは、あくまで企業の理想ではなく、実際の顧客をベースに考えるという点を忘れないでください。顧客データや口コミサイト、SNSなどの媒体から定量的なデータを集めて、それを基に具体的で納得感のあるペルソナを設定することをおすすめします。その上でそのペルソナがどうやったら満足するかを考えることが最も重要なポイントになります。
②既存顧客だけでなく新規顧客にも目を向ける
自社の商品やサービスをよく利用している既存のユーザーにペルソナを寄せてしまうと、潜在的にニーズを持っている新規顧客の人物像とズレが生じてしまう可能性があります。
既存顧客を逃さないことも大事ですが、より売り上げを伸ばすには新規顧客の獲得は欠かせないので、新規顧客の目線も持ちながらペルソナを設定しましょう。
③定期的に見直し再構築する
時間が経てば消費環境などが変化しユーザーの傾向も変わってきます。そのため、一度設定してそのままにするのではなく、常にユーザーの動向に目を向け定期的に再構築する必要があります。
ペルソナを活用し成功した事例8選
日本の企業でペルソナを活用し成功した事例を紹介します。
ペルソナ設定の際、参考にしてみてください。
①Soup Stock Tokyo
Soup Stock Tokyoは食べるスープを専門とした外食チェーン店で、商品開発や新店舗を出店する際にペルソナが活用されています。
ペルソナの名前は「秋野つゆ」という、37歳のバリバリのキャリアウーマン。性格は社交的だが自分の時間も大切にする生活を送っていて、プールに行くとクロールを泳ぐ、といった一見スープに関係が無さそうな項目まで設定されています。
Soup Stock Tokyoはそんな秋野つゆが満足するためのマーケティング施策を実行してきました。
レギュラーサイズでも税抜き590円といった高めの価格帯も、高所得であるペルソナに則しています。さらに、店舗の立地に関しても秋野つゆが利用するであろう駅の近くや高級住宅街に出店しています。
その結果、創業10年で売上高42億円、店舗数52店舗という急速な成長を遂げました。
②カルビー
カルビーのスナック菓子「ジャガビー」はペルソナを元に商品開発が行われました。
ジャガビーのペルソナは、「27歳・独身女性・ヨガとスポーツにハマっている」というものです。もともと同社には「独身女性は10代から20~30代になると3割がスナック菓子から遠ざかる」というデータがあったにも関わらず、あえてその層にターゲットを絞り込んだのです。
カルビーは、パッケージのデザインを「27歳の独身女性」の部屋に置いていても違和感の無いものにするため落ち着いた色合いにしたり、ペルソナがよく読むであろう雑誌「Oggi」で当時活躍していたモデルをCMに起用したりと徹底したペルソナマーケティングを展開しました。
その結果、一時は生産が追いつかないほどにまで売上を伸ばし、同社の代表的な商品となりました。
③富士通
富士通では、子どもに技術の素晴らしさを伝えるためのサイト「富士通キッズ」を開設後、アクセス数などの課題を改善するためにペルソナが設定されました。
そのような状況を書き記した「ペルソナを設定するための情報収集の仕方・完成したペルソナについてのハンドブック」は半年間でダウンロード数は1万を超え、多くのマーケターの参考書となっています
④大和ハウス
大和ハウスでは、建築家・鈴木エドワード氏とのコラボ商品「エディズハウス」の開発にあたりペルソナが活用されました。
まず行ったのがWebサイトで告知をし、プレサイトの会員を募集。会員にはアンケートに答えてもらい、エディズハウスに興味を持つ人のライフスタイルや価値観などの情報が集まり、それを元に「デザイン感度の高い」という核となる要素をもったペルソナが設定されました。
インテリア雑誌への掲載や、実際に商品を見てもらう展示会を開くことで顧客を増やし、Webサイト会員数を5倍に伸ばしました。
⑤TBC
TBCでは、「MEN’S TBC」の認知度を上げるための戦略をたてる際にペルソナが活用されました。
MEN’S TBCのペルソナは「都内のA学院大学に通う20歳の男性」に設定したことから、彼らが利用するであろうコンビニでロゴが入った洗顔料や制汗剤などの男性向けのコスメを販売し認知度を高めました。
その結果、MEN’S TBCへの問い合わせ件数は30~40%増えました。
⑥アサヒビール
アサヒビールでは、定番系発泡酒「アサヒ クール ドラフト」を開発するにあたってペルソナが活用されました。
定量的なデータを分析した結果、30代後半以上の男性で子どもがいて、週に複数回発泡酒を飲む人に絞り込みました。次に、その条件を満たす10人と個別にインタビューを行い、そこから得た情報を元に「年収900万円の44歳の自営業者で、家族は1歳下の妻と長男16歳、長女13歳の4人家族で都内在住」というペルソナを設定。このペルソナから「冷たさへのこだわり」を見出し、商品名とパッケージに落とし込みました。
その結果、発売開始から4ヶ月の間に296万箱という驚異の売上を実現しました。
参考:日経XTECH
⑦ダイヤモンド社
ダイヤモンド社は、ビジネス書や経済書などの発行をメインとした会社で、自社サイトの改善のためにペルソナが活用されました。一般的には既存顧客の代表的な人物に近づけて設定しますが、ダイヤモンド社ではあえて会社員ではなく教師をペルソナに設定しました。
その結果、普段から密接にビジネスに関わっていない人にもわかりやすく、求めている情報にたどり着きやすいサイトになり、UIを改修することに成功しました。
⑧atama+
atama+は全国の主要な塾に採用されているAIを用いた学習システムで、プロダクト開発におけるユーザー像として全社員が共通認識を持ち、日々意識する目的でペルソナが活用されています。
同社のホームページでは、2020年1月、高校生の「藤井真一」と中学生の「藤井純二」という2名のペルソナが公開されました。
このペルソナの他との違いは、名前だけでなくイメージ画像、さらには3Dフィギアまで作成されていることです。
オフィス内でも常に視界に入る場所に設置してあるそうで、可視化することでより具体的に想像を膨らませやすくするための有効な工夫と言えます。
この事例はまだ新しく、設定による効果などの公表はされていませんが、現場で役に立っていることに間違いないでしょう。
参考:atama+プレスリリース
まとめ
マーケティングにおいて重要な役割を持つペルソナ。
ペルソナを設定することで、これまで曖昧だったニーズや対象とするユーザーがはっきりとわかるようになります。本記事を参考に、自社でもペルソナマーケティングを取り入れ、よりよい商品・サービスを目指してみてはいかがでしょうか?